犬の命日
犬を飼っていた。名前はベッキー。同名のタレントが有名になるより前からそう名付けられていた、ビーグル系の雑種の犬。
母が保健所行きになる所を拾って、しばらく浦和の家で飼われて、母が越すタイミングで父方祖母の家に行った。
私より1歳年上で、物心つく前から遊んでくれていた。小学生になってからは散歩も行っていた。
ベッキーの周りにいた人々の中で、一番ベッキーに心を寄せていたのは勿論拾ってきた母だ。一番長い間世話をしてくれたのは祖母だけど、ベッキーは母の犬だ。あとは、ベッキーが小さい頃に面倒を見ていた母方祖父母。たぶん、その次が、私。
よく懐いていたと思う。ベッキーが私に、じゃなくて、私がベッキーに。暇さえあれば散歩に行ってブラッシングをしていた。なんなら糞だってちゃんと拾っていた。
私はもうすぐ22になる。ベッキーは生まれて23年。もちろんずいぶん前に亡くなっている。
ちょうどこのくらいの寒い時期で、最後は瞳が白く濁って、鼻も利かなくなり、頭を撫でても僅かに体を動かす程度にしか反応しなかった。私が物心ついて初めて生き物の死を見つめた時だったと思う。悲しかったなあ。ベッキーがいなくなったことを受け入れるのに1年近くかかった。
命日なんてもう覚えていないけれど、もうすぐ亡くなって8年だ。私が物心ついてからベッキーとお別れするまでの時間と同じになった。ベッキーと過ごした時間の割合は私の人生の中で、小さくなるばかりだ。そのことが、ただ寂しく、今でもあのつやつやした毛皮に被われた形の良い頭の感触を、思い出している。