江國香織『すいかの匂い』を読む

 

せっかくの春休みなので人に薦めてもらった本を読むことにする。薦めてもらった本の中で立ち寄った本屋に唯一置いてあった『すいかの匂い』。怖いもの見たさで読んでねと言われてディープな恋愛ものを想像してかかったら見事に裏切られる。

「夏」を共通の舞台にした11の短編から成る。大人になった語り手が自身の忘れられない記憶を回想する形の物語である。子供の記憶は実にあいまいで、できごとの背景が分からなかったり、突拍子もないものが強く印象に残っていたり、かと思えば重要な部分が抜け落ちていたりする。そういった子ども時代の記憶の不正確さが実際以上にその記憶を恐ろしく、特別で、鮮やかなものに見せる。そういった印象を受けた。

全部そこはかとなく後味が悪い。グロでもホラーでもないのに少し奇妙な雰囲気で、なんとも言い難いものがある。カタルシスの得られなさといったらいいのか、本当に「なんとも言い難い」としか言いようがない。こんな頭の悪い感想しか書けないけど嫌いじゃない。なにより文章がとても好きだ。

特に怖かったのが「水の輪」。これがまさに「子どもの頃の記憶だからこそ恐ろしい」というやつだと思う。もしこの主人公が一人の大人としてこの回想にある場面に居合わせても、特別怖いとは思わないだろう。子供だったからこそ恐ろしく、その怖かったという感情ばかり強調されて記憶されるから恐ろしいのだ。子どもの頃は経験値が浅いから恐怖も驚きも大人の比じゃないということは身に染みてわかっている。

 

文章が好きだと思ったので、特に好きな文章でも引用しようかと思ったんだけど、特にこれという所がないのでやめます。全体的に穏やかな雰囲気の流れる柔らかい文章で紡がれる、暑い日の冷たく恐ろしい思い出の話。同期の受け売りになるけど、怖いもの見たさで読んでほしい。